日本人の7割が歯周病といわれる理由

専門医が解説する「発症しやすい背景」と「守るためのケア」

日本では、歯周病が非常に身近な病気であることをご存じでしょうか。
厚生労働省が行った調査では、20代の約7割、そして高齢者では歯が残っている人のほとんどが歯周病の所見を持つという結果が示されています。
さらに10代後半でも、約65%の人に何らかの歯周病の兆候が確認されており、「若いから安心」とは言えない状況です。
なぜ、これほど多くの人が歯周病にかかってしまうのでしょうか。

症状が出にくく、気づきにくい病気だから

歯周病がここまで広がっている最大の理由は、自覚症状が乏しいまま静かに進行してしまうことです。
歯周病の原因菌は空気の少ない環境を好む“嫌気性菌”で、歯と歯ぐきの境目に入り込み、プラーク(歯垢)を足場に奥深くへと広がっていきます。
初期に見られる変化は、

  • 歯ぐきの腫れ
  • 歯を磨いたときの出血

などですが、痛みがほとんどないため、多くの人が「大したことではない」と判断してしまいます。

実際、歯ぐきの色だけで健康かどうかを見分けるのは難しく、「毎日チェックしていたのに気づかなかった」
という声も少なくありません。専門家が写真を並べて比較すると、はじめて赤みや腫れに気づくケースも多いのです。

症状が軽いうちに治療できれば負担は少なく済みますが、気づかず放置すると歯を支える骨(歯槽骨)がゆっくり破壊されていき、5~10年かけて歯がグラつき始める段階へ進行してしまいます。この頃には抜歯が避けられないこともあります。

“みがき残し”が完全には防げないという現実

歯周病が増えるもう一つの理由は、家庭でのケアだけでは歯垢を完璧に取り除くことが難しいことです。

  • 歯並び
  • みがき方の癖
  • 歯ブラシの当て方

これらの理由から、どうしても磨き残しが生じます。
さらに、プラークが硬くなり歯石へ変化すると、歯ブラシでは落とすことができません。
歯石は歯周病菌にとって格好のすみかとなり、いったん歯周病が始まると進行を止めるのが難しくなるのです。
北欧を中心に、口腔内の細菌バランスを整える乳酸菌タブレットなどを活用する方法も研究されていますが、根本的には定期的にプロのケアを受けることが最も確実とされています。

症状がなくても、まずは検査を受けることが重要

歯周病は、早期であればあるほどシンプルな治療で改善できます。「痛くないから大丈夫」という判断ほど危険なものはありません。

一度歯科医院で歯ぐきの状態をチェックしてもらい、必要に応じて

  • 歯周病検査
  • プラークや歯石の除去
  • 歯みがき指導

などを受けることで、進行を大きく抑えることができます。

しかし、本当に大切なのは治療が終わった後のメインテナンスです。
歯周病は糖尿病や高血圧と同じく「慢性疾患」。br
治療が完了しても、日々の食事で歯垢がつけば細菌が再び増殖し、活動を再開してしまいます。

メインテナンスが歯を守る根拠

研究で明らかになった“圧倒的な差”
歯周病治療の分野でよく知られるアクセルソンとリンデの研究では、
治療後に3カ月ごとにメインテナンスを受けた人と、検査のみで自宅ケアに任せた人を6年間比較しました。

結果は明確で、

  • 定期的にメインテナンスを受けた人:歯ぐきの状態を良好に保てた人が約9割
  • 検査のみの人:歯周ポケット(炎症の指標)が再発した人が89%

という大きな差が出ています。
これは、専門的なケアを習慣化すれば、歯周病による歯の喪失を大きく減らせることを示しています。

まとめ:歯周病を防ぐために今日からできること

  • 症状がなくても一度は歯周病検査を受ける
  • 磨き残しが出る前提で、定期クリーニングを取り入れる
  • 治療後は3〜4カ月ごとのメインテナンスを継続する

日本で歯周病が多い大きな理由は「気づきにくさ」と「セルフケアだけでは限界がある」点にあります。しかし、正しい知識を持ち、定期的にプロのサポートを受ければ、歯周病は確実にコントロールできます。一人でも多くの方が歯を失わずに済む未来が訪れることを願っています。